不動産を相続する際の手続きの流れが分かったところで、次に「不動産の相続登記」についてご説明します。
不動産の相続登記とは
不動産を相続すると、通常は所有権を移転するための登記手続きをすることになります。登記をしなくても罰則などはありませんが、その不動産が自分のものであると法律上主張するためには登記が必要となり、これを放っておくと不要なトラブルを引き起こしかねません。また、売却する際にも登記が必要となる場合がほとんどです。登記手続きには時間や手間がかかるので、早めに済ませておくことをお勧めします。
誰が登記の申請をするのか
相続登記を申請するのは相続人です。相続人が複数いる場合は、その中の1人が全員の分を申請することもできます。遺産分割協議や遺言によって1人の相続人が相続することになった場合は、その不動産を取得する相続人が申請人になります。
何が必要なのか
- 相続登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人の戸籍、住民票
- 相続する不動産の固定資産税の評価証明書
- 遺産分割協議書(協議による分割の場合)
といった書類が必要になります。
相続登記に必要な費用
登記にあたっては登録免許税として固定資産評価額×4/1000(円)がかかります。司法書士などに依頼すると報酬として別途6万円前後かかるのが相場のようです(複雑な相続では高額となることもあります)。
こんな相続登記ですが、書類の取得や作成など手間や時間がかかるため、司法書士や弁護士に手続きをお願いすることがほとんどのようです。
しかし自分で申請することも可能なので「相続人の数が少ない」「トラブルになっていない」などといった場合には、自分で申請するケースも少なくないようです。
Web上には自分で申請するためのガイドも見つけられます。
不動産を分割するとは
遺産の分割というのは、遺言書が無い場合は民法で規定されている割合に従って分割するのが原則となります。このとき仮に遺産がすべて現金であれば分割にあたって大きな問題は生じないでしょう。しかし、遺産のほとんどが土地や自宅といった不動産、といったケースも特に日本人には多く、不動産は分割するのが難しいためトラブルになりやすいのが実情です。
では実際に不動産を分割するにはどういった方法があるのでしょうか?それぞれの方法とメリットとデメリットを見てみましょう。
方法1.現物分割(分筆)
物理的に分割してしまう方法です。家と土地は長男に、車と預金は長女にというようにです。また土地を分筆してそれぞれを別々に登記することもできます。
- <メリット>
- 不動産が更地の場合、公平に分割することは比較的容易である
- 土地を手放さなくてよい
- 土地の評価額が下がり税金が安くなる
- <デメリット>
- 相続人の住んでいる建物があるなど更地にできない場合は向いていない(実際に住む予定のない相続人が一部分割して区分所有することになる)
- 土地の大きさや形によっては、分筆後の活用が難しくなる場合がある(評価額が下がる)
現物分割は大きな土地を相続する際には有効といえるでしょう。分筆してしまえば将来その処分について揉めることもありません。
方法2.共有分割
不動産を「共有」で分割する方法です。この方法は不動産を物理的に分割せずに、不動産全体を相続人がそれぞれの割合で共有する方法です。
- <メリット>
- 土地を手放さなくてよい
- 合意が得やすく手続きも比較的簡単
- <デメリット>
- 売却、賃貸、増改築などをする場合は、相続人全員の合意が必要になる
- 相続人の子供たちがさらに相続するようなことになると、共有者(利害関係者)が増えてますます複雑になる
現物分割と似ていますが、こちらは財産を共有することになります。 相続税の申告および納税は相続の開始から10か月以内に行わなければならないため、「とりあえず共有」されることがあります。しかし将来この不動産を処分したいと思った時に、共有者全員が合意しないと処分を実行できず、皆の思惑がバラバラだと誰も手を加えられないまま固定資産税は払い続ける…ということにもなりかねません。共有はオススメできないと考える専門家が多いようです。 すぐに売却することで合意できている場合には一考の余地ありでしょうか。
方法3.換価分割
財産を売却して現金に換えて分割する方法です。
- <メリット>
- 現金の分割になるので公平性が担保され、あとでトラブルになりにくい
- <デメリット>
-
- 土地を手放さなければならない
- 処分に手間と費用がかかる
- 譲渡所得(売却益)に所得税がかかる場合がある(*ただし取得費加算特例がある)
- 希望の価格で売れるとは限らない
換価分割は相続人の間での不公平感は小さく、誰も住まなくなった居住用の建物などがある場合などには有効な方法といえます。ただし、売却に際しての手数料や譲渡所得にかかる所得税などのため、実際に手にすることのできる額は目減りしてしまいます。また、特に相続税の納税のために売却を急いだりすると、低い価格で売却しなくてはならないこともあります。
*取得費加算特例とは、相続の開始から3年10か月以内に不動産を売却した場合、支払った相続税(の一部)が不動産の取得費に算入することができる制度です。
方法4.代償分割
相続人の一人が不動産を相続し、その代償として他の相続人に各人の持ち分に応じて現金などを支払う方法です。
長男が6000万円の土地を相続して次男に3000万円支払う、といった具合です。
- <メリット>
- 土地を手放さなくてよい。
- 公平に分配されることが明確なので、あとでトラブルになりにくい
- 節税できることがある
- <デメリット>
-
- 不動産を相続する人は多額の現金が必要になる
代償分割は、遺産が住居くらいしかなく分割が現実的に難しい場合、あるいは子供一人がが親の事業や農業等を引き継ぐ場合などに有効な方法です。また、代償金として支払われる金銭には、贈与税ではなく税率のより低い相続税が課税されることになるため、節税に用いることができる場合があります。 しかし不動産を相続する人には相続税に加えて多額の代償金が必要となることから、分割払いにしたり、相続した不動産を担保に融資を受けたりするケースもあり、経済的な負担が大きくなる心配があります。生命保険や死亡退職金を代償金に支払うケースも多いようです。いったん遺産分割について合意してしまうと、代償金の支払いが滞っても遺産分割のやり直しをすることはできないことにも注意が必要です。
それぞれについてメリットとデメリットを理解した上でスムーズな遺産分割ができるといいですね。
今のうちにできること
さて、不動産の相続にもいろいろな分割方法があることがわかりましたが、少しでも手間を減らすために生前にできることは無いのでしょうか。
いちばん確実なのは、予め遺言書を作成して引き継ぐ先を決めておくことです。そのとき、他の相続人に対する配慮も忘れないようにすると、トラブルになりにくいと言えるでしょう。例えば、同居している長男に家を土地を(代償分割によって)相続させ、その代償金に充てさせるため自分にかけた生命保険の受取人を長男にしておく、といった方法が考えられます。
他にも、
- 売却したい(して欲しい)不動産
- 分筆したい(して欲しい)土地
を所有してる場合にはできることがあります。
不動産の売却や分筆をするためには土地家屋調査士による測量や隣接する土地との境界の必要となるのですが、こういった確認は済んでいるでしょうか?もしこういった調査が整っていない場合は、必要に応じて測量等を行っておくことで相続後の手続きがスムーズに運びやすくなります。
何かとトラブルを引き起こしやすい相続。今からできることを始めてみませんか?